4人がオンラインで集まり、今回はサステナブルファッションの課題とその日常での実践について意見を交換することになった。テーマは「サステナブルな日常をどうやって楽しむか」。しかし、会話はいつしか、経済とファッションの複雑な関係にまで及んでいく。
「桜子、これ見て!」紅葉がスマホの画面を桜子に差し出した。画面には、近所で開催されるフリーマーケットの情報が映っている。
「これって地元のリサイクル品を集めたイベントらしいんだけど、結構おしゃれなものが並ぶみたい。行ってみない?」
桜子は興味津々で画面を覗き込み、「面白そう!フリマって宝探しみたいでワクワクするよね」と声を弾ませた。
そして、少し控えめなトーンで切り出した。「最近、洋服の質が落ちてるって感じるんだけど、これって私だけかな?」
紫陽花が軽く頷く。「私も感じる。特に普段着るようなブランド。前より生地が薄くなったり、縫い目が甘かったりするよね。」
続けて、紫陽花はパソコンの前であるニュース記事に目を止めていた。「ファストファッションの影響で洋服の質が落ちている」という内容だった。思わずそのリンクと、「ねえ、これってどう思う?」とメッセージを送った。
「確かに、ファストファッションの影響もあると思う。」柚が静かに口を開いた。「価格を抑えて大量生産するために、素材や縫製にコストをかけられない。そういう仕組みが全体に波及してるんだよ。」
紅葉が深く頷く。「そうだね。でもファストファッションがあるから、トレンドを手軽に楽しめるっていうのも事実だよ。デザイン専門の立場からすると、ファストファッションは若い世代の創造性を刺激してくれる存在でもあると思う。」
桜子が少し考え込みながら言った。「でも、その結果、中堅のブランドも価格帯を下げざるを得なくなってるよね。最近、昔から好きだったブランドでも『あれ、こんな安っぽかったっけ?』って感じることが増えてきてる。」
柚が手元のノートを見ながら続ける。「中堅ブランドが価格を下げなければ売れない。だけど、価格を下げれば質は落ちる。そして、その結果、売れない服が増えて廃棄される――。この悪循環を止めるには、経済の仕組みを変える必要があると思うんだ。」
紫陽花が少し目を輝かせて口を開いた。「それって、どうすればいいんだろう?たとえば、良いものをそれに見合う価格で売買できるような経済を作るには?」
柚が静かに答える。「一つは、消費者が本当に価値のあるものを見極めて、それに対価を払う文化を育てること。もう一つは、企業側が価格に見合った質を提供し、それをしっかりと伝えることかな。」
紅葉が興奮気味に続ける。「つまり、消費者と企業の信頼関係が大事ってこと?それなら、もっと透明性を高めて、どうやって作られているかを見せていけばいいんじゃない?」
「まさにそれ!」柚が嬉しそうに笑った。「製造過程や素材の背景を知ることで、消費者が選択肢を持てるようになる。そして、服を長く使う文化が根付けば、結果的に廃棄量も減ると思う。」
桜子が少し戸惑いながらも意見を述べた。「でも、長持ちする服って、最初は高いよね?私みたいにファッションを楽しみたい人にとって、それってハードル高いかも。」
紫陽花が少し考え込みながら口を開く。「確かに。だからこそ、ファストファッションの良さも生かしつつ、持続可能な方法を模索するのが現実的かも。たとえば、服をリメイクするとか、お手入れを工夫するとか。」
紅葉が笑顔で提案する。「それなら、リメイクワークショップを開くってどうかな?持っている服をアップサイクルする方法を学べるイベントとか。」
「いいね、それ!」桜子が目を輝かせた。「ただ捨てるんじゃなくて、手を加えて新しいアイテムに変えられるなんて、楽しそう!」
柚がうなずきながら締めくくる。「ファッションを楽しむことと、サステナブルであることは矛盾しない。大切なのは、自分たちが何を大事にしているかを考えながら、選んでいくことだと思う。」
ミーティングの後の独り言
それぞれの画面が消えた後、桜子は自分のクローゼットを開けた。お気に入りだったはずの服たちが、どこか疲れたように見える。
「もっと大切に使えばよかったかな……」
彼女の中に、何かが変わり始めていた。ファッションを楽しむだけでなく、その背景や未来まで考えることの大切さを初めて意識したのだ。
次回予告
ファッションを多様な視点で考える4人。それぞれのスタイルや価値観を深掘りし、次のプロジェクトのヒントを探る――。
次回、第15話:「ファッションの多様性」
環境や社会への配慮を重視したファッションのスタイルや取り組みを指す。具体的には、再生可能な資源やエコ素材を使用した衣類、労働者の人権を尊重した生産過程、使い捨てではなく長く愛用できるデザインが特徴。環境にやさしく、持続可能なファッションの提案が広がっている。
環境省_サステナブルファッション