夕暮れの街を照らす淡いオレンジの光が、冬木柚の机に置かれた資料をやわらかく染めていた。彼女の前には、一枚一枚異なる表情を持つファッションスケッチが並べられている。紅葉が描いたデザインだ。そこには、多様な素材、色、そして形が表現されており、どれもが「サステナブル」というテーマを通して一つにつながっている。
「これ、すごく素敵だね。でも…やっぱり素材が揃わない問題、まだ解決してない?」
柚が紅葉に問いかける。
紅葉は少し困ったように笑った。
「そうなんだよね。再利用可能な素材を使おうと思うと、どうしても制限が多くなっちゃう。しかも、それでおしゃれに見せるのって、すごく難しい…」
彼女の声には不安がにじんでいる。
「ただの自己満足にはしたくない」
「紅葉ちゃんのデザイン、どれも素敵だと思うよ!」
桜子が紅葉の肩に軽く手を置いて励ます。
紫陽花も静かにうなずく。
「サステナブルっていうテーマが難しいのはわかる。でも、紅葉さんのデザインは見てるだけでワクワクするし、どれもすごく魅力的だよ」
紅葉は少し照れくさそうに笑みを浮かべたが、その後でつぶやいた。
「でも…ただ自己満足で終わらせたくないんだ。私がやりたいのは、誰でも着られて、誰でも楽しめるファッション。体型とか性別とか関係なく、みんなが自分らしくいられる服を作りたいの。だけど…現実は、まだまだ難しいことばかりだよね」
その言葉に、全員が一瞬黙り込む。しかし、それは重い沈黙ではなく、紅葉の真剣な思いに対して、それぞれがどう応えるべきかを考えているような静けさだった。
立ち上がる仲間たち
「…だったら、私にできることがあるかもしれない!」
先に沈黙を破ったのは紫陽花だった。彼女は自分のノートパソコンを開き、すぐにキーボードを打ち始める。
「紫陽花ちゃん、何してるの?」
桜子が首をかしげる。
「オンラインで、素材を扱ってる業者を探してるの。廃材とか、リサイクル可能な素材を扱ってるところをもっと詳しく調べてみる。もしかしたら、紅葉さんのデザインに合う素材が見つかるかもしれない」
紫陽花の集中した表情に、紅葉の目が少し潤む。
「ありがとう…紫陽花ちゃん。本当に…ありがとう」
すると、桜子も負けじと立ち上がった。
「じゃあ私は、SNSで紅葉ちゃんのデザインをどんどん宣伝するよ!多くの人に見てもらえば、誰か協力してくれる人が出てくるかもしれないし!」
柚はそんな二人を見て、ゆっくりと微笑んだ。
「私も、この話を前に相談した企業の人たちにもう一度持っていくよ。紅葉ちゃんの思いが伝われば、協力してくれる可能性はある」
多様性の中で輝く思い
それぞれが動き始める中、紅葉は思わず笑みをこぼした。自分一人では乗り越えられないと思っていた壁が、仲間たちの力で少しずつ崩れ始めている。
「ねえ、紅葉ちゃん」
桜子が紅葉に向き直り、こう言った。
「紅葉ちゃんが作りたいって言った、みんなが楽しめる服って、どんなの?」
紅葉は少し考えた後、答える。
「…着る人が、そのままの自分を好きになれる服。誰かに合わせるんじゃなくて、自分のために選べる服がいい。それが、私の理想かな」
桜子はその答えに満足したように笑った。
「最高じゃん!それ、私も着たい!そういう服が世の中にもっと増えたらいいよね!」
紫陽花も頷く。
「その理想を実現するために、私も手伝うよ。紅葉さんのデザインが、もっと多くの人に届くように」
柚もまた、その場を締めくくるように言った。
「みんなで力を合わせれば、きっと形になる。私たち、そういうチームなんだから」
温かな夜
その夜、4人は紅葉の家で簡単な鍋パーティーを開いた。テーブルにはたくさんの笑顔と、小さなアイデアがあふれていた。
「ねえ、このアイデアどう思う?」
「それ面白いじゃん!やってみようよ!」
「…ちょっと待って。紫陽花ちゃん、何その変な絵!?」
「えっ、これ…ひつじのつもりなんだけど…」
笑い声が広がる中、紅葉はふと、仲間たちの顔を見つめた。この温かな空気の中で生まれるアイデアや言葉が、自分の夢を支えてくれている。そう思うと、自然と涙があふれてきた。
「みんな、本当にありがとう。絶対に、私の理想の服、作ってみせる」
紅葉の決意に、全員が大きく頷いた。そしてその小さな輪は、サステナブルファッションという大きな夢に向かって、また一歩前進していくのだった。
次回予告
コミュニティの力をもっと広げるため、新しい試みを始めた4人。しかし、そこには思わぬトラブルが待ち受けていて――。
次回、第16話: 「柚のもうひとつの夢」
彼女の胸に秘められた、新たな目標が明かされる。
環境や社会への配慮を重視したファッションのスタイルや取り組みを指す。具体的には、再生可能な資源やエコ素材を使用した衣類、労働者の人権を尊重した生産過程、使い捨てではなく長く愛用できるデザインが特徴。環境にやさしく、持続可能なファッションの提案が広がっている。
環境省_サステナブルファッション
作者の勝手なオススメソング!「時間の流れと経験の中で、全てのフレーズが心に刺さります。そして、きっと、あなたにもただ会いたいだけという仲間がいるはず。だから、ちゃんと叫んで!」
平井 堅 『ノンフィクション』MUSIC VIDEO (Short Ver.)(Youtubeが開きます)/ 温かい鍋パーティーのシーンや紅葉が涙しながら仲間に感謝するシーンで流したい曲。紅葉の夢と仲間たちの支え。
「惰性で見てたテレビを消すみたいに・・・」「みすぼらしくても、欲まみれでもいいから、ただ、あなたに会いたいだけ」同じ目標で戦った4人なら「ただ会いたいだけ」と言える仲間になるはず